2023年9月18日デビュー30周年記念リサイタルのお知らせ

2023年7月吉日


ヴァイオリンリサイタルご案内

瀬﨑 明日香

 藝大附属高校へ入学したばかりの5月、私には入学試験と共にその先にもう一つの難題が待ち受けていました。日本演奏連盟よりリサイタルの機会をいただいていたのです。最初は私の好きな曲を集めてのプログラミングでした。しかし、直前に師の故田中千香士先生は超絶技巧のニコロ・パガニーニ作「カプリース全24曲」に変更されました。初めてのリサイタルが最初から最後まで独奏であること、24曲全曲暗譜であることと課題は究極の極みへと上り詰めました。14歳の私には正直、背負いきれないほどの重荷であり、まさに崖っ縁に立った気持ちで過ごした日々でした。
 3月には京都で開かれていた京都フランスアカデミー講師として来日されていたパリ国立高等音楽院のピエール・ドゥーカン先生、当時のN響コンサートマスターの堀正文先生のご指導も受け本番に備えました。
 そうして迎えた当日、東京文化小ホールの銀盤の舞台裏には先生が控えてくださっていて、4曲弾き舞台袖に下がる度に次の4曲のポイントを指摘していただきながらようやく弾き終えることができました。終演後、いつになく清々しいお顔の先生は「一人で歩きたい気分、、、」と足早にホールを後にされました。後にわかったことは、カプリース全曲演奏は先生ご自身の夢であったということでした。
 『体が柔らかいうちに超絶技巧に挑戦する、しかしそれが目的ではなく、その先にある音楽表現とは何かを学び取る』田中先生の教えは音楽の真理をついていました。
 この体験は私の音楽活動の出発点であり、その教えは何にも代えがたい音楽人生の大切な指針となっています。
 これまでに出会えた先生方、さらには私を支えてくださった方々、そして何よりいつも会場でお聴きいただいた方々の温かいお気持ちに心からのお礼を申し上げます。
 音楽の道を邁進する人生に深い感謝の気持ちを抱きながら、さらなる高みを求めて歩んでいきたいと願っています。